5章 その6

レナ「失礼します」
智恵「そこに座ってください」
レナ「はい。どんなお話ですか?」
智恵「入江先生、あとはよろしくお願いします」
入江「ありがとうございます、智恵先生」
レナ「えっ? か、監督がどうしてレナに・・・・」
入江「レナさんにお話がありまして」
レナ「今日も診療所に行こうと思ってるんですけど・・・・ その時ではダメなんですか?」
入江「・・・・はい。診療所では少し話辛い内容なので」
レナ「・・・・レナにどんな話があるんですか」
入江「前原さんの事です」
レナ「・・・・ッッ!?!?」
レナ「どうして今更その話を?」
入江「・・・・少し気になる事がありまして」
レナ「気になる事? それ、レナも気になるなぁ」
入江「えっ? れ、レナさんには関係していませんよ」
レナ「じゃあ誰に関係しているのかな? ・・・かな・・?」
入江「レナさん・・・・・」
レナ「言えないんですか?」
入江「い、いえ、決してその様わけでは・・・・」
レナ「じゃあレナが当てましょうか?」
入江「・・・・レナさんが?」
レナ「沙都子ちゃん」
入江「・・・・レナさん・・・・・」
レナ「正解ですか? それとも・・・・」
入江「残念でしたね。不正解です」
レナ「・・・・本当に?」
入江「えぇ、本当です」
レナ「・・・・監督は沙都子ちゃんを警察に 連れて行くつもりじゃないんですか?」
入江「レナさん、私がそんな事をする人間に見えますか?」
レナ「・・・・・・・・・・」
入江「もしそう見えるのでしたら、教室に戻って 授業を受けてください。時間を割いてもらい 申し訳ありませんでした」
レナ「・・・・・どうして今更圭一くんの話を?」
入江「気になる事があるんです。この答えでは不服ですか?」
レナ「・・・・監督は沙都子ちゃんを売ったりしないよね・・・・・」
入江「はい、絶対にしません。誓います、だから、」
レナ「どうして沙都子ちゃんが警察のお世話になる 事をしたと知っているんですか!?!?」
入江「梨花さんに聞きました」
レナ「それは本当ですか?! 嘘じゃないんですか?!」
入江「嘘ではありませんよ。本当です」
レナ「証拠はあるんですか!? 証拠は!?!?」
入江「梨花さん自身に聞くの一番早いと思われます」
レナ「じ、じゃあ! じゃあ・・・・」
入江「レナさん、落ち着いてください」
レナ「・・・・レナは落ち着いています」
入江「あはは、そうでしたね。では本題に入っても 問題有りませんね? いいですか?」
レナ「・・・・わかりました」
入江「ありがとうございます。実はレナさんに 当時の様子を 詳しく聞きたくなりまして、ここへ来たんです」
レナ「様子、ですか?」
入江「はい。出来るだけ具体的に、現場の様子を 教えてほしいんです。辛い事を思い出す事に なりますが、どうかお願いします」
レナ「・・・・・あの時は」
レナ「大きな悲鳴が聞こえてきました。その悲鳴の主は 間違いなく圭一くんです。きっとまた沙都子ちゃんの トラップにやられたんだと思い、レナは圭一くんの 様子が気になったのでそちらへ向かいました」
入江「はい。それで?」
レナ「圭一くんの悲鳴が聞こえてきた所辺りに 沙都子ちゃんがいました。沙都子ちゃんは その場に立ち尽くしてボーッと立っている状態だったと 記憶しています。それでレナが声をかけました」
入江「ふむ」
レナ「沙都子ちゃんは酷く驚いて、なんだか落ち着かない 様子でした。最初は不思議に思ったんですけど、 倒れている圭一くんを見つけて確信しました。 きっと圭一くんが想像以上にトラップのダメージを 受けてしまって驚いていたんだと思います」
入江「それで?」
レナ「圭一くんの意識を確認してみたんですが、レナが いた頃には既に意識を失っていました。沙都子ちゃんは それにも驚いていたんだと思います。挙動が変でした」
入江「はい、その後は?」
レナ「その後はいきなり現れた詩ぃちゃんと会話して、 智恵先生に報告へ行き、先生と一緒に現場へ戻りました」
入江「そしてそこに前原さんはいなかった、ですか」
レナ「はい」
入江「わかりました。それからの出来事は 大体を梨花さんから伺っているので結構です」
レナ「・・・何か力になれましたか?」
入江「正直、私には信じられません」
レナ「沙都子ちゃんが・・・圭一くんを・・・した事ですか?」
入江「いえ、そこではなく、前原さんの死因です」
レナ「・・・?」
入江「前原さんの死亡を誰か確認しましたか?」
レナ「そ、それは・・・・」
入江「気が動転していた沙都子ちゃんが前原さんが 死亡したと誤認してしまった可能性があります」
レナ「それって・・・・じゃあ圭一くんは・・・!」
入江「あくまで可能性の話です。ですがそう仮定すると おかしな点がいくつか浮かび挙がります」
レナ「・・・・どういう事ですか?」
入江「これも推測です。まったく根拠は有りません。 もしも前原さんがなんらかの理由で精神状態が 普通ではなくなってしまっていたら?」
レナ「・・・・意味がわかりません。例えそうだとしても、 家に帰るのが最善だと誰もが考える筈です。あとは・・・」
入江「私の診療所ですね。怪我をしてしまい、それを 治療してもらうために診療所を訪ねる」
レナ「でも、違うんですよね? 圭一くんは 診療所には行かなかった」
入江「えぇ、それは私が証明します」
レナ「ほら、話がおかしいじゃないですか。実は 圭一くんは生きてる・・・・そんなの・・・」
入江「可能性は0ではありません」
レナ「あれから何日も経ったんです。圭一くんはもう・・・・」
入江「そうですね。ですが、可能性は0ではない」
レナ「・・・・圭一くん・・・・・」
入江「こんな話をしてもきりが無いと、それはわかっています。 ですが信じてみる価値はあるのではありませんか?」
レナ「・・・・・信じる・・・・」
入江「そうです。信じる事は、誰にだって出来る事ですから」
レナ「・・・・どうしてレナにこんな話を?」
入江「信じてくださいと無理に強要はしませんよ。 ですが、信じてみる事は決して悪い事ではない」
レナ「・・・・・・・・・」
入江「お友達を、信じてあげてください」
レナ「・・・・もう・・・遅いよ・・・・」
入江「いくら遅くなろうとも、信じる事はいつだって 出来るんです。レナさんにもわかる筈ですよ」
レナ「例えそうだとしても・・・・もう無理なんです・・・!」
入江「どうしてそう思うんです?」
レナ「だってレナは! レナは・・・・酷い事をした・・・ とってもとっても・・・・酷い事をした・・・」
入江「・・・・・・・・・」
レナ「・・・・もう遅いんです・・・レナには・・・・ 罪を償う資格すら無いんです・・・・・!!」

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